流行の波から降りた日、本当に着たい服が見えた。
私は身長163cm、胸囲99cmという体型で、既製服にずっと悩まされてきました。
ジャケットを胸で合わせれば着丈が長くなり、丈を詰めればポケットから裾までのバランスが崩れる。
パンツもウエストに合わせれば太ももが入らず、足が短いので股下をカットすると裾巾が太くなる。
──そんな体型に合う服はなかなか見つからず、中学生の頃からデザイン画を描き、綿パンやシャツをオーダーしていたのも、その不満な思いがきっかけです。
高校は私服だったので、リネンのジャケットやドレスパンツを仕立て、ベスパで登校していました(…バイクが見つかって停学にもなりましたが…)。
オーダーを重ねるほど自分の理想は明確になりましたが、それを形にする難しさも痛感しました。経験を積んでもなお、心から満足できる一着に出会えない
─その“難しさ”こそが、後に自ら店を立ち上げる原動力になったのです。
大学卒業後に入社した繊維商社では人事部に配属され、毎日スーツを着る生活に。
そこからオーダーのペースは加速し、気が付けば、この仕事に就くまでにスーツやジャケットだけで70着以上をオーダーしていました。
1999年、社内ベンチャーで「Masse Attura」を立ち上げ、2003年に独立。
2009年、職人の高齢化に強い危機感を抱き、後継者育成塾「マイスターファクトリー」を開塾。
幸運にも業界を代表する方々の賛同を得て、5年間活動を続けることができました。
2012年、工房併設型店舗としてハービスPlazaに移転し、同時にセカンドライン「テノミカロイジーニ」もスタート。
お客様に愉しんでいただける環境と、技術者が直接お客様と接する機会を持てる環境を整えました(現在テノミカロイジーニは閉店)。
2013年、マイスターファクトリーは閉塾しましたが、ありがたいことに卒業生の7割が今も業界で活躍してくれているのは、私にとって何よりの喜びです。
2023年の春、これが最後と決めた新店舗へ。ここは、今までの経験と想いを詰め込んだ、「お客様にゆったり寛いでいただける場所」を目指しました。