特に北イタリアではクラシックなデザインのコートです。
既製服でも作られているデザインですが、全体の雰囲気は別モノ。
全体から醸し出される雰囲気もそうですが、例えばこのコートの袖付けのように、
サルトリアの技法の1つ、『ジーリ・リンボッカーティ』という膨らみのある優雅で貴族的な袖付けは
大量生産型の工場縫製では出来ないでしょう。


極太の上下衿も特徴的で、工場縫製では難易度が高い意匠です。
写真では判り難いかもしれませんが、ラペルのクリースも軽くアウトカーブさせてあったり、


手で纏り付けたバックベルトや、細かい意匠的な部分にも手仕事が満載されています。
その他にも、随所にサルトリアミラネーゼの技がてんこもり&オンパレードなコートに仕上げてもらいました。

しかし一見ディティールとして語られやすいこれらの技巧も、
意匠的な理由よりも、見えない部分のプントイングレーゼ(特殊な纏り縫い)も含め、
この最高の生地(マーティン&ソンの超へヴィーなベネシャン織)が着込んだ時、綺麗に育ってもらえるように!
それが作り手の願いであり、敢て着用感を滲ませる事で高まる存在感を狙っていたりするのです。


生地は、オーダー会当日までにご来店頂き、このコートに合うものを数点まで絞っておいて、
その中から当日、縫い手が「縫いたい!」と思う生地を選んでもらう。
Nさんらしい、オーダーの入れ方をして下さいました。

これには、初めての河合氏も感動したようです。
Nさん、いつも楽しく仕事をさせて頂き、本当にありがとうございます!

最後に、アルスターコートの一般的な出自ですが、
19世紀半ばにアイルランド島北東部に位置するアルスター地方で織られる、
粗野で重い生地で作られていたデイリー&ヘビーユースの機能性重視のオーバーコートでした。
フロントのデザインは、基本、両前のダブル(風向きによって重なりを逆にする)で、
ウエストに巻くベルトが付き、襟も立てられるという完全な実用本位。

その後、シングルでケープが付いたタイプが多く見られるようになってきたようです。
シャーロックホームズに出てくる紳士がよく着ているスタイルですね。

今回のコートは
生粋のアルスターではありません。
普通のアルスターコートはセンターベントなのに対し、
このコートは、背にピエゴーネ(大きなヒダの意味)を持っています。
イタリア軍に限らず、他国軍でも採用された『軍服』としてのアルスターコートが
現在のミラノのサルトリアで作られるアルスターに酷似している事からも、出自は軍服なのでしょう。

このように、アイルランドで生まれたアルスターコートですが、
19世紀後半から20世紀前半の戦争期に、
アルスターの一亜種であった「ピエゴーネ付」のアルスターが
機能的要請によって軍服として採用され、実際の軍服としての用途を変遷し、
イタリアで、現在のようなアルスターコートスタイルに落ち着いたと考えられているようです。

実際、ミラノ最高峰の1つ「A・カラチェニ」でも、このコートのオリジンとして『軍服』を挙げています。
イタリア語でulsterという意味が、このデザインに直結しているのではないか?と。
クレセントの河合氏によると、イタリア人は、ウルステル(ulster)と
下手クソな発音で、このコートのことを呼ぶそうですよ(笑。

そんな歴史的変遷から、戦後、
生地も幾分ソフトな生地を使うなどして、
主に比較的寒冷な北イタリアでクラシックコートとして
生き残ってきた歴史を背負う、だからこそ男臭いコートなんだと思います。

ちなみにモーニングの原型は、18世紀のイギリス貴族の乗馬服です。
イギリス貴族が、朝の日課である乗馬の時に着ていた乗馬服が起源になっています。
朝に着るからモーニング。朝に食べるのもモーニング!服好きは区別の為にモーニング「コート」って言いましょう。
冗談じゃないですよ(笑。 モーニングの由来も、正式にはモーニングコートって呼ぶ事も本当なんです!

更に、そのライディングコート(乗馬服)がアルスターコートの原型と言われていますから、
ライディングコート(乗馬服)が、現在の紳士服のほとんどのモデルの
始祖と呼んでも大丈夫なのではないでしょうか。

付け足しですが、アルスターはピーコートやトレンチコートの原型とも言われています。
こんな風に、洋服って何かを出自としている事が多いのですが、
あとは洋服史の専門家に任せましょう!


いつもナポリの本店でオーダーしてくるのですが、
最近長らく行けてないので、ミラノの河合君に頼んで手配してもらいました。


次の春にも10本程度ですが、追加で入荷予定です。
気になる方は、お早めにお願いします。



Tさんのスーツ、キースヘンダーソンの60年代のデッドストック生地です。
男くさい独特の色気のあるツイードっぽい生地ですが、色使いはここ数年の流行色グレージュです。


キースヘンダーソンは、
まだ日本が鎖国時代だった江戸時代後期1836年に創業された、いわゆるロンドンマーチャントの1つです。
同じ年に、ホーランドシェリーがロンドンで創業しており、
今では、キースヘンダーソンは、そのホーランドシェリーの傘下になっています。
ちなみに、ホーランドシェリー社は、
鎖国中の日本と唯一交易があった国、オランダ出身のホーランド家が
家業として始めた「マーチャント(生地商)」で、日本には1913年に輸入が開始されました。
日本では、商標の都合で、InnesChambersや JohnCooper と同じコレクション内容となります。
以前、スコットランドのピーブルスにあるホーランドシェリー社の本社を訪れた時のことや、
英国ハダスフィールドのミル(機屋)を見学させて頂いた時の事も書いておりますので、こちらもご覧ください。 
2007年:ホーランドシェリー本社訪問
2002年:ドブクロス織機の見学


本年度、最後のお渡しのお客さまNさんは、
オーダー歴50年以上という方で、お好みをハッキリお持ちです。
そんなNさんのお好みと、マッセアトゥーラのお勧め部分を融合させたスーツとしました。

軽い着用感と、見た目の優しい雰囲気のスーツですが、
それでいて従来のオーダーを着てこられた方にも違和感なく受け入れてもらえる。。

技術の中山君が百貨店にいたころ、
Nさんが着ていらっしゃるようなスーツを何百と経験してきたので、
絶対に押さえておかなければならない構造的な部分と(例えばポケットに物をたくさん入れるだとか、、)
マッセアトゥーラが求める部分(手でしか成し得ない物作り)を融合してくれたので、
今日のご試着段階で、Nさんから頂いた評価は上々です。


あとは奥さまをはじめ、
周りの皆さまからの『見た目的な評価』を待つばかり。
50年以上に渡って培われたNさんのお好みと、マッセアトゥーラの考える物作りが、
果たして融合されているか、、
来年に向けて、また1つ楽しみが増えました。
Nさん、若輩者の僕たちにお任せ下さいまして感謝致します。
Nさんから、「任せて正解だったよ!」と言ってもらえることを願っています。



以前ご紹介した生地で、ジャケット&ベストの組み合わせです。
今までお洋服を着倒してこられたYさんですが、ホームページで見て直感が働いたそうです!

他にもご紹介させて頂きましたが、やっぱり予想通り、今年の人気ナンバーワンのジャケット素材でした。
今までになかった感じなので、生地をずっと見てこられた方には新鮮に映るのでしょう。
毛芯を使って柔らかく、でもシッカリと仕立てましたから、
愛着を持ってガンガン着て頂ければ、どんどん表情が優しくなっていきます。
Yさんお気に入りのお洋服となって、着るほどに馴染んでゆく感覚を愉しんで頂けることを願っています。


仮縫い後、打ち合い寸法やボタン位置などの微調整に再度お付き合い頂き、
Uさんのホワイトカシミアのチェスターコートが完成しました。
とてもゴージャスで濃厚な雰囲気が漂っています。
生地の質感を生かした仕立てです。
天然のアザミを使ってリップル加工が施されています。


前に迫り出すバストドレープからウエストにかけて、
やり過ぎ感が出ないように、立体的なバランスで上品に絞らせて頂きました。


頻繁に着ていただくコートでもないですし、
末永く着て頂くコートですから、Uさんと打ち合わせの上、
クラシックな雰囲気を漂わせる仕上がりをイメージして、完成させました。
メンテナンスについてもお伝えしていきますが、Uさんは元々業界の方で、僕より大先輩!
僕の方が教えて頂く事が多いですね。それにしても最近、元アパレル業界で、今は事業家の方が多いです。
嬉しい限りです!! Uさん、この度も本当にありがとうございました。
このような機会を託して頂き、本当に感謝しております。



ロッリさんが大絶賛して下さったスーツ、先日に引き続いて2着目です!
この生地は今年のロッリサジェスチョンで、ロッリさん余計に嬉しかったんじゃないかと思います。
英国の機屋(ミル)で織られた英国柄の生地ですが、色使いは完全にイタリア仕込み、ロッリさんデザインですから(笑!
Nさん、いつもと同じく、、この生地も、着るほどに馴染む、仕立てが活きてくる生地ですから、楽しみです♪



以前ご紹介させて頂きました、
アニオナのアルパカ素材のコートです。
先日お渡しした時に写真を撮らせて頂くのを忘れ、
お近くにお越しとかでKさん、わざわざ寄って下さいました!!
Kさん、何て良い人なんでしょう!(って、前々から分かってますが笑)
僕も作ろうかと思いながら、いつも後回しになりますが、とっても暖かいそうです。



このフラノ、低速織機で織られており
今まで見てきた(触ってきた!)フラノの中で最高の質感です。
ホーランドシェリーのヴィクトリーフランネルも、低速織機で織られていて最高ですが、
そちらは価格も最高ですので、グレーフラノなどレギュラーなフランネルでしたら、コストパフォーマンスは最高です!
Wさん、ガンガン着て頂き低速織機で織られた生地感を味わって下さいね。



ラムズゴールデンベールとカシミアの混紡という
ラグジュアリーな生地で仕立てたクラシックなチェスターコートです。
触った感じ、コートにすると薄く感じますが、目が詰まっていて650g/mもあります。
そのせいか、厚手のカシミアのような感じではなく、ドレープ感のあるシャープな雰囲気で凄く暖かいです。


以前、ユーロテックスの生地で『ダイヤモンドケーブル』という生地がありましたが、同じ原理です。
糸番手は太いのですが、繊維番手が極細ですから、
糸の断面を見ると、繊維密度が高くて空気をたっぷりと含んでいます。
この意味、瀬戸大橋のケーブルの断面を見た事がある方なら分かって頂けると思います(笑。


糸番手がケーブルの直径だとすると、繊維番手は赤青黄で、各色127本のピアノ線から成っています。
直径約1mのケーブル1本は、何と!!
直径約5mmのピアノ線が34417本も束ねられて作られているそうなんです。
1本の棒状より、こちらの方がしなりやすく、強度もありそうですよね!
なんだか、応用力学?の勉強みたいになってきましたね(爆


見た目にはシンプルですけれど、
こんなコートこそ、ラグジュアリーの王道ですね。
Nさん、大切に末永くご愛用頂けますよう、マッセアトゥーラでも、
しっかりメンテナンスをさせて頂きますので、これからも宜しくお願いいたします。



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