今日、届いたロンドンストライプのシャツ地。
英国のシャツファブリックメーカー『acorn(エイコーン)』製なんですが、
トーマスメイソンにいたチャットバーン氏が、1975年に英国ランカシャーで創業したメーカーです。
今も、昔ながらの低速織機を使ってシャツを織り続けているメーカーです(一部は高速織機に変わっていますが)。


英国、ランカシャー、低速織機、、で、皆さんは何をイメージしますか?
ここで気付かれた方は、余程の歴史通か、洋服好きか、メイカーズを読まれた方でしょう(笑)。
そうです!どれも産業革命のキーワード。以前、産業革命について簡単に書いた事があるので、読んでみて下さい。
ちなみに、英国のシャツ地として有名だったトーマスメイソンもランカシャーに工場があったのですが、
今、その跡地は倉庫として貸し出され、イタリアのアルビニ傘下
に入りました。
Sさんがお選びになられた、この『普通のロンドンストライプ』も
低速織機で織られた生地で、1ヤード巾(92cm)です。



今日、Nさんがお選び下さった生地です。
先日先にオーダー頂いたお洋服をお渡しの時に、
たまたま机の上に出ていた生地を気に入って下さいまして、
その時に僕が「この生地なら工房で仕立てさせて頂いたら、もっと
味わい深いお洋服になりますので、お勧めですよ!」と、お伝えしたんです。
Innes Chambers 『VICTORY』

その言葉に、Nさん凄くご興味を持たれ、
すかさず「生地によって仕立てを替えた方が良いって、
仕立て方で、そんな違いが出てくるの?」と、ご質問を頂きました。

その生地はラムズゴールデンベールを使用し、
更にその中でも、ほぼ同じ繊維長の原毛を使っており、
ドブクロス織機で織り、油脂分をたっぷり含んだ天然石鹸で洗い、
その後の乾燥も、乾燥機ではなく、10日間もかけて、ゆっくりと自然乾燥させるといった
昔ながらの製法を採っている生地でした。昔はこれが普通でしたが、今では気の遠くなるような作業です。
(この生地につきましては、後日改めて紹介させて頂きます。)

こんな生地に比べて、最近の織機で織られた生地は、
緯糸にかかるテンションが強く、生地が持つ柔らかい風合いや弾力性が失われてしまいます。
それに対して、ドブクロス織機でゆっくりと低速で織られた生地は、
糸にテンションがかからず、ふんわりとしたウール本来の柔らかな風合いと弾力性に富んだものに仕上がります。

そんな生地は、時間がかかってでも、手でゆっくりと縫えば、
生地が持つ風合いや弾力性を損なわずに、着用感の良い立体的な洋服に仕上がります。
弾力性のある生地に高速ミシンで縫った場合と、
ゆっくりとした速度(部分に世よっては糸と針で)で縫った場合では、
実際に縫った所を見比べてみると、その差は一目瞭然です。

そんなこんなで、設計士という立場で物作りをされているNさんは、
とても興味を持って頂いたようで、仕立てを優先して、改めて、この生地をお選び頂きました。

ラムズゴールデンベールWoolと
エスコリアルWoolという、世界最高レベルの素材(糸)を使って、
世界最高峰の英国のミル(機屋)テイラー&ロッヂの手で織られた、夢の共演のような生地です。
ラムズゴールデンベールとエスコリアルWoolの、夢のような競演

一般に、Lumb’s Golden Bale(金に包まれた羊とでも訳しましょうか)と呼ばれる生地は、
ごく少量しか取れないメリノ種の極細の梳毛(ウーステッド)を使って織られます。
その、ごく少量しか採れない羊を飼育した牧羊業者に与えられる賞が、
ゴールデンベール賞(Golden Bale Award)なのです。
そんな希少価値のある糸と、これまた
カシミア以上に超希少なエスコリアル糸を使って織られています。
妖艶な、特別の織マーク

エスコリアル種については、
今のオーストラリアンメリノ種の起源とされ、
今でも純血のまま飼育されているのは、オーストラリアの隣、
ニュージーランドの5万頭(世界の羊の頭数全体の中で1%にも満たない数です)だけです。

少しだけエスコリアル種の歴史について触れておきますと、
モロッコのアトラス山脈の丘陵地帯を原産とする羊がスペインに持ち込まれ、
マドリッドの北西45kmにあるEL ESCORIAL修道院では、16世紀からこの種の飼育が始まりました。
当時の国王フェリペ2世(スペイン帝国の黄金時代)が、王族にのみ使用を許可したのが、
エスコリアルの名前の由来とされ、文字通りラグジュアリーな生地でした。

その後ナポレオンのスペイン攻略によって、
一旦エスコリアル種は絶滅したと思われていたのですが、
当時のスペイン王国は、親族や他国の皇族への大切なプレゼントとして、
この種の羊を贈っていたようで、その後、偶然発見された羊が19世紀初頭タスマニアに移され、
その後、現在まで純血種が生き残っており、今では英国のエスコリアル協会が指定する5社だけが生産しています。

この種は普通のメリノ種の1/3程の体で、繁殖能力も弱く出生率も低く、
原毛はカシミアの半分の軽さで収穫量も非常に少なく、カシミアの生産量にも達しません。
繊維が繊細すぎて製品化する事が難しく、2002年にようやく世界で最も細番手の羊毛として認定されました。

ちなみに、一般的なメリノ種は、
イベリア半島(スペイン)を原産とする最も有名な細毛品種ですが、
その起源は西アジアで、古代、地中海経由でイベリア半島に持ち込まれたそうです。以前は、
スペインの繊維産業の主力として、国費で飼育・改良され、近代までは国外への輸出が禁じられていたそうです。
それが18世紀に豪州に持ち込まれて更に改良され、
今ではオーストラリアンメリノ種として、オーストラリアの羊毛の75%を占めています。

こちらは夏用で、キッドモヘア60%に、エスコリアル20%+ゴールデンベール20%の割合で織られています。
キッドモヘアに、エスコリアルとラムズゴールデンベール

キッドモヘアの張りに加え、
何ともいえないラグジュアリーな手触りです。
夏物は痛み易いと云う理由から、高級な生地を避けられる方が多い中、
こんな超ド級の高級素材を選んでみられては如何でしょう(笑。汗対策はお伝えしますよ(爆。
絶妙のコンポジションに、絶妙の色使い。



TAYLOR & LODGE/テイラー&ロッヂの、ウール&シルクwithカシミアの生地です。
画像では巧く表現できずに残念ですが、今後こんな生地は出来ないでしょう。
これは、ゴードン・ケイ氏がまだテイラー&ロッヂにいらした頃の物。
最終の仕上げ行程(Finishing)が自社で行われた生地です。

服地作りは、仕上げ行程(Finishing)で全てが決まるとさえ言われ、
その仕上げ技術によって、服地の表情が大きく変わり、印象も異なるからです。
テイラー&ロッヂの色気は、織り行程ばかりか、その仕上げ技術によると言われてきました。

しかし、そのテイラー&ロッヂでさえ、現在は外注です。
このFinisherには、以前行ってきましたので、改めてレポートします。
仕上げ工程に時間をかけるから、英国服地には独特の色気が生まれるんですけどね。

ちなみにゴードン・ケイ氏は、
英国ハダスフィールドの名門ミル『TAYLOR & LODGE』の前社長を長く務められた方で、
5年前の2007年12月、50年近い現役生活に終止符を打たれました。
Sさん、、大切に長く着て下さることを願っています。





ウィリアムハルステッドのソラーロ。(ソラーロはイタリアでの通称ですが、英国ではサンクロスと呼びます)
仮縫中に、Kさんの携帯が鳴り、シャッターチャ~ンス。(ご了解を頂いて、、)
巧くソラーロの表情を捉えられているでしょうか!?
実際に見て頂かないと、この「凄さ」は見えませんね。
もしかして、僕の腕のせい!?(汗)
色調は少し違いますが、
この画像がいちばん玉虫でしょうか!?
経糸(タテ)が緑、緯糸(ヨコ)が橙の糸で織られていて、
この補色使いによって、玉虫の中でも、特に個性的な表情を作っています。
僕自身、2000年の春にロロピアーナのソラーロでスーツを作ったのですが、
当時そのスーツを着て歩いてると、どこかの金持ちに見えるなと、、
どういう意味か、今になって理解できました(汗。



ハダスフィールドの機屋さんを見学させて頂きました。




この機屋さんでは、織物によって昔ながらの織機と最新の織機とを使い分けておられます。
手の込んだ複雑な織物には、時間のかかる低速シャトル織機で、
シンプルで安価な織物には、短時間で織れる高速シャトルレス織機が使われ、
多くの織機が、広大なスペースに設置されています。
織機も電子化が進んで、経糸(タテ糸)のテンションや緯糸(ヨコ糸)密度、組織などが
合理的にコンピューターで数値的に制御され、安定して織物が織れますが、
その反面、織キズや織り密度のバラつき等の?味?がなくなります。

経糸を必要な本数だけ織物の巾に合わせてシート状にして
ビームというドラム缶を横に細長くした様なものに巻き取ります。(経整形)
150cm巾の生地で、平均5,000本もの経糸(約35本/1cm)が使われるんですよ!
次に、緯糸についてお伝えします。
生地は、主に緯糸の構成で、色々な表情を出します。
色々な織柄を出す為に絶対に必要なもので、HEALD(ヘルド)と呼び、
日本では綜絖(そうこう)と呼ばれる物で、緯糸を通すために経糸を上下に開く器具です。
生地のデザインによって、必要なヘルドを組み合わせ、
それを織機にセッティングします。
そして、先程のビームに巻かれた経糸の先端を、
組み合わせたヘルドに1本1本通し終え、これで織る準備が完了です。
この作業は手作業だと大変ですから、ドローイングマシーンという専用機で行なうのですが、
高速で織る場合、経糸の間に緯糸を通しやすくしようとして、
経糸を強く張ってしまうと、生地のむっくりした風合いが損なわれてしまいます。
そしていよいよ織布が始まります。
これは高速シャトルレス織機、ズルツァー(スルザー)です。
シャトル(杼)がなく、グリッパーと云う小さな鉄片が糸を掴んで経糸の間を走ります。
他にも更に超高速で織れるジェットルームもありました。
以前、低速織機の機屋さんを訪れた時の様子は、こちらへどうぞ
更に2007年に訪れた、北アイルランドの超低速の足踏式織機もご覧頂けます。
来月は、マイスターファクトリーの生徒さんと一緒に、愛知県の低速織機の機屋見学に伺います。



今年からマーティンソンに2プライが加わりました。
3プライだと目付けが450gもあるので、「真夏は着たくないよ~」
という皆さま方には、こちらの、同じフレスコの2プライ(280g)がお勧めです。
フレスコは1907年にマーティンソンによって商標登録され、
中でも3プライは、僕の中で思い入れがあります
こちらが、その登録商標の現物です。
八ダスフィールドのマーティンソン社を訪れた時、
皆さんに色々と教えて頂きました。
左から、デザイナーのハンナさん、取締役のゴードン氏、営業部長のジェーンさん
1900年代のアーカイブ(過去資料)を見せてもらったのですが、
その中に、確かに3プライフレスコがありました。
何と!100年前の生地見本です。
こちらは現在のフレスコを使ったお洋服で、只今仮縫い着付け待ちです。
出来上がる頃には、ちょうど良い季節になっている予定。
Oさん、3プライの次は2プライを是非!(笑)


何から何まで手をかけた手縫ジャケット
選んだ生地は、今では生産されていない英国産6プライ。
これから着込むにつれ、どんな表情に変わってゆくのか密かな楽しみです。

イタリアで縫ってもらうので、完成までに時間はかかりますが、
そんな時間は、これからの付き合いを考えると、むしろ楽しみに変わります。
6プライの織りの現場は、以前の出張で訪れていますので、
後日改めて、ご紹介させて頂きます!



今年の年初に適わなかったアイルランドのスペンスブライソンですが、
ここのアイリッシュリネンは、皆さん知らず知らずのうちに、
マーチャントのコレクションで目にされているハズ。
しかし、ほとんどがマーチャント物なので、
直接目にする事は少ないでしょう。

そのスペンスブライソン社のリネンを、マーチャント物としてではなく、
オリジナルのコレクションで見ていただく事ができます。
ご興味のある方は、是非ご連絡下さい。

コレクションは、盛夏用のライトウエイトなものから、
あいものとして、早春や秋にかけて着て頂けるヘヴィーウエイトなものまで、
無地のウエイト(目付)違いや織り違いをはじめ、他にも色々な色柄が揃っています。

これは、経糸と緯糸の色を変えたシャンブレー調の生地です。
こんな感じで、ストライプも展開されています。
今回は、シャツ地もご準備させて頂きます。
こんなオルタネートストライプも展開されています。
今度こそ!と、2009年の春にスペンスブライソン行きを予定していたのですが、
生産拠点が、、アイルランドじゃなくなるかも、、という噂があります。
というか、既にチェコに移り、更にチェコから中国って噂まで。
シェットランドツイードやハリスツイードを始めとした、
地域性の強い生地は、存続の危機ですね。
何とかならないのか、残念です。


本当に色々ありましたが(笑)、今回も充実した旅となり、今日帰国しました!
アイルランド行きが、諸事情によって急にキャンセルとなってしまい、
その分、思ってもみなかった先に寄せて頂けたり、
はたまた飛行機のフライトの関係でバルセロナに立ち寄ったり、
これまた日付を越えた深夜のリバプール空港に到着し、そのまま空港で寝たり、、
そんな中で、残念ながら叶わなかった訪問先は、次回の楽しみに取っておく事にします。
という事で、長い間お休みを頂き、ありがとうございました。
また今回の訪問に際し、お世話になった皆さまに御礼申し上げます。
その模様は追々お伝えしますが、先に訪問先の中から数枚ピクアップさせて頂きます。

Edwin Woodhouse (英国|ヨークシャー州リーズ)
右が共同経営者のジョン・ゴント氏、左が営業担当のジョナサン・スペンサー氏です。
acorn (英国|ランカシャー州ネルソン)
*acornの経営者、チャトバーン家
左から長男クリス氏、ジョン・チャトバーン氏、次男ジョージ氏
Martin Sons&Co,Ltd. (英国|ヨークシャー州八ダスフィールド>
左から営業企画デザイナーのハンナさん、マネージングディレクターのゴードン氏、
そして、セールスディレクターのジェーンさん
Bateman Ogden (英国|ヨークシャー州ブラッドフォード)
右が、自らこだわりの生地バンチサンプルを編集する社長、コリンズ氏。
*William Bill (英国|ロンドン)
ツイードのスーツにカシミアのネクタイ姿。
カントリージェントルマン的な着こなしには、年季が入った貫禄を感じます。
昨年のドネガル行きが実現したのは、この方のお陰でした。
*William Bill の織りネーム
*william Billのオフィスに掛けてあった仮縫い中のアイリッシュリネンのジャケットは、ヘンリープール製。
どうやら社長用みたいです。(笑)