仕立てを優先した生地選び

今日、Nさんがお選び下さった生地です。
先日先にオーダー頂いたお洋服をお渡しの時に、
たまたま机の上に出ていた生地を気に入って下さいまして、
その時に僕が「この生地なら工房で仕立てさせて頂いたら、もっと
味わい深いお洋服になりますので、お勧めですよ!」と、お伝えしたんです。
Innes Chambers 『VICTORY』

その言葉に、Nさん凄くご興味を持たれ、
すかさず「生地によって仕立てを替えた方が良いって、
仕立て方で、そんな違いが出てくるの?」と、ご質問を頂きました。

その生地はラムズゴールデンベールを使用し、
更にその中でも、ほぼ同じ繊維長の原毛を使っており、
ドブクロス織機で織り、油脂分をたっぷり含んだ天然石鹸で洗い、
その後の乾燥も、乾燥機ではなく、10日間もかけて、ゆっくりと自然乾燥させるといった
昔ながらの製法を採っている生地でした。昔はこれが普通でしたが、今では気の遠くなるような作業です。
(この生地につきましては、後日改めて紹介させて頂きます。)

こんな生地に比べて、最近の織機で織られた生地は、
緯糸にかかるテンションが強く、生地が持つ柔らかい風合いや弾力性が失われてしまいます。
それに対して、ドブクロス織機でゆっくりと低速で織られた生地は、
糸にテンションがかからず、ふんわりとしたウール本来の柔らかな風合いと弾力性に富んだものに仕上がります。

そんな生地は、時間がかかってでも、手でゆっくりと縫えば、
生地が持つ風合いや弾力性を損なわずに、着用感の良い立体的な洋服に仕上がります。
弾力性のある生地に高速ミシンで縫った場合と、
ゆっくりとした速度(部分に世よっては糸と針で)で縫った場合では、
実際に縫った所を見比べてみると、その差は一目瞭然です。

そんなこんなで、設計士という立場で物作りをされているNさんは、
とても興味を持って頂いたようで、仕立てを優先して、改めて、この生地をお選び頂きました。