久々の工房中継ですー


生地を切って曲げて、パンツをグニュグニュ~


アイロン操作で曲げて体に沿わせますよ~ ジャケットもグニュグニュ~




今日はマニアックな話題です。
ご興味のない方はスルーして下さいね(笑。
きっと、吐き気を覚える方もいらっしゃると思いますので(爆。

昨今の生地は、
伸縮性など、さまざまな特徴をもっています。
生地の発達と共に、平面縫製では追い付かないところもあり、立体縫製で対応しております。
人台にかけて、生地(皮膚)を、筋肉である毛芯と添わしてゆきます。
シルエットと着心地を決定する重要な工程です。

この工程を加えることで、
丸みのある立体的なシルエットを実現することが出来ます。
生地の発達と共に、我々の縫製技術も進化させないと良い服を作ることは出来ません。
熟練した職人の技術(伝統技術)も、
時代に合わせてリファインし続けなくてはなりません。
このように、技術を作業分解することで、若手にも伝えやすくなります。


この生地は低速織機で織られた昔ながらの生地なので安定はしていますが、
ゆったりと織られているので糸がむっくりしていて、今のタイトなシルエットを表現しようとすると、
生地のバイアスの力をうまく利用して皮膚と筋肉を添わせば、
抜群の着用感とシルエットが生まれます。


*この生地を織っている機屋の訪問記はこちらです → 『ドブクロスLoom(英国製の低速織機)』
*他に、日本国内の低速織機の機屋訪問記もあります
  『見学、葛利毛織』
  『尾州の機屋さん(三星毛糸)見学』
  『播州織の可能性』
  『世界に求められる遠州織り』
*低速織機で織られた生地の仕立てについてウダウダ書いた内容です
  『生地と仕立ての相性』
  『低速織機で織られた生地を、低速縫い(手縫)で仕立てる。』



今日は私、技術中山が担当させて頂きます。
皆さま、宜しくお願いします。

☆襟の造型
Kさんの印象と、ジャケット全体の雰囲気をみて
襟のかたちをデザインしていきます。


☆表地を被せる
デザインが決まったら、テンションを調整しながら
生地をかぶせてゆきます。衿を手で掛ける理由は、人間の動きの支点となる
首周りを柔らかく、ストレスなく包み込むことが目的です。
以前は、師匠方に銭湯帰りのタオルのように、
優しく包み込めと言われました。
神田川の世界ですが、
果たして、、
若者に通じるのでしょうか?


さぁ、袖も柔らかく付けちゃいましょう!
もう少しで完成、Kさんもう暫くお時間頂きます!




パリとイギリスが融合したような見事な着こなし、ありがとうございます!
*でもこのパンツはKiton(ナポリ)ですが、、


さて、技術的な話になりますが、
今回のJさんの生地は、編み物のように伸縮性のある生地。
その生地を最大限に活かす為に、あえて接着芯を使わず『毛芯』を使いました。

生地(皮膚)と毛芯(筋肉)と裏地の三者を、
肉ばなれを起こさないよう三位一体にする仕立てをすると、
自然と胸に巻きつくドレープとシャープなウエストラインに一体感が生まれます。

下の写真で言いますと、
向かって右側(ご本人の左側)が不完全な状態です。
そして、左側が三位一体になった方で、シャープで立体的な印象。
もちろん、不完全な方は三位一体に修正して完全な状態にしてお渡し致しました。


マッセアトゥーラのハウスクチュールでは、
既成芯ではなく、生地(皮膚)に合わせた毛芯(筋肉)を作って、
三位一体の仕立てをするので、新たな着心地やシルエットを発見して頂く事が出来ます。
皮膚とか筋肉と言っていますが、これは医療ではなく、衣料の話です(笑。



ハウスクチュールは
毛芯から全てオリジナルで作ります。


仮縫用なので軽く「ハ刺し」で留めます。


立体になるように整えています。
これも仮縫いなので、後で融通が効くように軽く、です。


で、芯を据えて仮縫完成です。


仮縫が終わったら、全てをバラバラに解いて、
芯は、お湯に一晩浸して、それから「自然」乾燥させ、
本縫用の芯の作成にはいります。


パッドもお客さまの肩の傾斜角ばかりか、形状にも配慮して作っています。
こういう見えないところの造形も、お客さまの「肉体を再構築する」ためには欠かせない工程です。




スペンスブライソンのへヴィーウエイトな
アイリッシュリネンで仕立てたサファリジャケットです。
9月半ばにフランスに行く時に着て行きたいと440グラムを選ばれました。
このウエイトのアイリッシュリネンは春先と初秋に大活躍。着込んだ時の表情が最高です。


北アイルランドのスペンスブライソン社は、
英国王室御用達の最高品質リネンとして知られています。
アイリッシュリネンは、実はその紡績技術に定評があったのですが、
現在では、フラックスの生産や紡績はアイルランドで行われておらず、織りだけ。
アイルランドの紡績工場の保存に向け、ナショナル・トラストの動きもあるほどで心境は複雑。
地球温暖化の皺寄せが、フラックス栽培の緯度の限界線を南下させる事に、、

ちなみに、
リネンの原料はフラックスと呼ばれる一年草の植物で、
この原料が紡績によって糸になるとリネンと呼ばれるようになります。
リネンは吸水速乾性に優れた高機能な天然素材で、スペンスブライソンはその中でも最高峰です。

麻は大好きな素材で、よければこちらも読んでみて下さい。
麻シャツを着倒す!
麻ジャケを着倒す!
スペンスブライソン
アイリッシュリネン

これはちょっと違いますが、
シルエットの綺麗なアイリッシュリネンと云うことで(笑。




チャーミングなMさんの目に止まったのは、
ガーゼのように、とても軽くて透け感のあるダブルフェイスの生地です。
「この生地でワンピース作って!とっても可愛いわ♪」
「型紙は、いつものでお願いします♪」
見られた瞬間、即決(笑。

少々滑りが悪くなっても裏地は付けず、
いっそのこと割り縫いに!
えぇ~い、そこまでいくならリバーシブル仕立てにしてやれぇ~
と、思ったのですが、生地が薄すぎて、ファスナー部分の処理などが無理です(汗。
もう少し厚手の生地なら、リバーシブルのワンピースもありですね(笑。
この生地、裏の生地が透けて表地に浮かび上がるんです♪
Mさんに着て頂いて写真撮らせてもらいますね!



テーラード(後述)の洋服は、生地だけで服にはなりません。
見えない内側は、毛芯や肩パッド、垂れ綿(画像)など、多くの附属・副資材から構成されています。
垂れ綿は、袖山を丸く立体的に見せるため、内側から表地をふくらませます。

この垂れ綿も、芯地や肩パッドと同様、
既成品ではなく、イメージする洋服に合わせて作ってゆきます。
目に見えない影武者たちの存在が、その洋服がどのように見えるのかを決定付けてゆきます。


こういう一手間ひと手間、料理と似ていますね。
丁寧に灰汁を取ったり、面取りをしたり、油揚げの油抜きなどの下処理をしたり。
この一手間が、料理の味わいを随分と変えるのと同じですね。


【テーラード】
テーラーメイドと同義で使われます。
テーラー(紳士服の仕立屋・裁縫師)に由来し、
一般的に「紳士服仕立ての」という意味で用いられます。
ドレスメイキング(婦人服仕立て)の柔らかい仕立て方に対して、
テーラードは、素材・型・仕立て方などが硬く、しっかりと仕立てられます。
最近の紳士服は柔らかくなり、婦人物(ドレスメイキング)との差がなくなってきています。



今日は福井のNさんのお渡しでした。
微妙な襟のカーブは、最終工程として『現場合わせ』です(笑。
このスーツ、先日ロッリさんがお越し下さった時に大絶賛して下さったうちの1着です!!


もちろん、左右のバランスを取りながら!!


微調整を何度か繰り返し、、
完成品の画像を撮り忘れました(汗。
次回、ご来阪頂いた時に、改めて撮らせて下さいね!!
Nさん、いつもありがとうございます。暖かいスーツで、寒い冬を乗り越えて下さい♪




クラシックな茶系のチェスターコートです。
でも、この色がミソで、赤みが強く、若干青みも帯びています。
赤みと青み。ひと言でいうと「紫」っぽい色目の茶色なんです、、巧く表現できません。
このコートで最後ですが、使い勝手も良く、この微妙な発色が気に入って、何本かストックしていたものです。
1枚毛芯仕立てで、敢えて総裏仕立にしてあります。見た目はアンコン1枚仕立ての方が軽いですが、
実際には、身返しの表地を使うので、重くて硬くなってしまいますし、裏地がない分
滑りが悪くなって、コートだと尚更のことと思ってこの仕様に決定!


これは自分だけの密かな満足感ですが、
どうでしょう、この表情。表地と裏地、それに袖裏があって、ネームの色。
店を始めた頃からの、僕のお気に入りで、ネームを入れるのを嫌う方にも、ついつい勧めてしまいます。


店ネームの色とも偶然ピッタリで、思わずこちら側も撮ってしまいました!
Kさん、ありがとうございました!僕も大満足です(笑。


質感を保つため、出来るだけドライクリーニングには出さずに、
ブラッシングをしっかり、たまにスチームを入れて、ふんわりさせてあげ下さい。
シミが付いた場合は、触らず直ぐにご連絡下さい。それでは末永くご愛用になられる事を願っています。